繁忙期に年休の請求が多く困る。時季変更権を行使するにはどうする【平成4年:事例研究より】

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当社では、毎年1月から12月までを年次有給休暇の年度として、1月1日に年次有給休暇を与えています。

年次有給休暇は、労働者の希望する囗に与えるようにしていますが、その年度中に使い切れなくなった年次有給休暇を年末の忙しいときにとる人が多くて困っています。

忙しい時期に年次有給休暇を請求された場合、他の時期に与えることができるということですが、年末(12月)に請求された場合、一切認めず次の年度(1月1日)に与えるということにしてもよいのでしょうか。

【神奈川・T社】

労基法第39条第4項は、「使用者は、前3項の規定による有給休暇を労働者が請求する時季に与えなければならない」と規定し、年次有給休暇(年休)は、原則として労働者が請求する時季に与えなければなりません。

ただし、請求された時季に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季にこれを与えることができるとして、使用者に時季変更権が認められています。

年休をその年休の権利が発生した年度に取得しなかった場合、その年休の権利がどうなるかについては学説上争いのあるところですが、行政解釈は「法第115条の規定により2年の消滅時効が認められる」(昭22・12・15基発第501号)とし、その年度に使用しなかった年休は、次年度に繰り越され、行使することができます。

その年度に行使されなかった権利は、次年度に繰り越されますので、年度末(12月)に使用者が時季変更権を行使した場合でも、労働者は次年度1月1日以降)にその年休を取得することができます。

したがって、使用者は年度末に請求された年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、時季変更権を行使することができます。

行政解釈も「年度を超えて変更することもできる」(昭23・7・27基収第2622号)として、年度を超える時季変更権を認めています。

ところで、「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、「当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断するべきである」(此花郵便局事件=昭53・1・31大阪高裁判決)とされています。

年末(12月)の年休を一切認めないということはできませんが、年末が特に業務繁忙であり、かつ、多数の労働者が競合して年休を請求するような場合には、時季変更権を行使することができると考えられます。

年休の権利は、発生したときから2年間有効ですから、客観的に時季変更権を行使しうる事由が存在すれば、その年度を超える変更も可能なわけです。

しかし、年休の有効期間を超える時季変更権の行使はできません。

年休の時効は2年ですから、前年度から繰り越された年休は次年度には時効で消滅しますし、退職した労働者は、当然のことながら次年度には年休をとることはできません。

このような場合、年度を超えて時季変更権を行使されたのでは、結局、労働者は年休を取得することができなくなってしまいます。

前年度から繰り越された年休やその年度末(12月末)に退職する予定の者については、その年度を超えて時季変更権を行使することはできません。

【平成4年:事例研究より】