過労死の労災認定が厳しい。ハードな仕事が続けば問題ないと思うかどうか【平成4年:事例研究より】

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新聞や雑誌、テレビ等で、過労死問題が取り上げられることが多いようです。

どうもそれらを見たり聞いたりしていると、労災保険の過労死の労災認定が少し厳しいのではないかという感じがします。

常識的に考えてみても、仕事上の過労状態が継続した後の急性死は、問題なく労災ではないかと考えられるのですが、どうしてなかなか認定されないのでしょうか。

業務上・外の基準なども含めてお教え下さい。

【東京・C労組】

ご質問にありますとおり、最近は過労死問題を取り上げるマスコミが多いようです。

それを見たり聞いたりしていますと、たしかに労働省の労災認定が厳しすぎるのではないかという感じがしないでもありません。

では、労働省の労災認定は本当に厳しいのでしょうか。

単に、請求件数に対して認定された件数が少ないから認定基準が厳しいという評価は正しくありません。

そこで、どのような考え方が認定基準の基本にあるかということを考えてみることにします。

まず、通常問題になっています過労死をとり上げてみますと、具体的には脳出血等の脳血管疾患と、心筋梗塞等の虚血性心疾患等による死亡が該当します。

ところが、これらの疾患の発症にはいずれも仕事だけでなく、日常の私生活も影響を与えます。

このように各種の原因が競合して発症した場合の業務上外の決定は非常に困難であることは、当然予想できます。

では、このような場合に、どのような考え方により、業務上外の判断を行ったらよいでしょうか。

まず1つの考え方としましては、競合している多数の原因の中に、たとえ少しでも業務が含まれていればそれを業務上として取り扱う方法です。

この考え方に立つと、労災保険給付を請求する労働者側にとっては非常に有利です。

ところが、労災保険料を負担する経営者側にとっては負担の増加となり、はなはだ不利といえます。

もう1つの考え方は逆に、競合している発症原因の中にたとえわずかでも私生活上の原因が含まれていれば、すべて業務外として取り扱う方法です。

この場合には保険料を労使で負担する社会保険の給付対象ということになりますので、経営者側の負担は最初の場合に比較して軽くなります。

しかし、労働者側にとっては給付も低くて不利となります。

そこで、実際の取り扱いに際しては、両極端の考え方の間に妥当と考えられる点を探すことになります。

では、労働省はどのような中間点に立っているのでしょうか。

そのことを知るためには、過労死の認定基準といわれている「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(昭62・10・26基発第620号)を見てみる必要があります。

ところが、認定基準の本文にはそれが分かるような文章は見当たりません。

そこで認定基準に別添されている「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定マニュアル」を見ますと、その中の、「2脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定の基本的考え方」の中に、次のような箇所があります。

「急激な血圧変動や血管収縮が業務によって引き起こされ、血管病変等がその自然的経過を超えて急激に著しく増悪し発症に至った場合には、その発症に当たって、業務が相対的に有力であると診断され、業務に起因することが明らかであると認められるものである」。

つまり労働省は発症の原因がいろいろと競合している場合には、業務がそれらの原因の中で相対的に有力な地位を占めていればよいという考え方のようです。

この考え方は、前述しました1番目の考え方である少しでも業務の影響があれば業務上とするという考え方よりも、いく分厳しく、その分だけ労働者側にとっては不利といえます。

しかし、少しでも業務以外の原因が競合している場合には業務外とする2番目の意見よりはゆるく、その分だけ経営者側にとっては不利といえます。

結局、労働省としては労働者と経営者側の両方から、ある一定の距離をとって認定基準を定めているということでしょう。

労働省の立場としてはやむを得ないことかもしれません。

では、この労働省の認定基準は「厳しい」のでしょうか。

それとも「ゆるい」のでしょうか。

この評価は非常に難しいことです。

結局、いえることは、前述したところから分かりますように、労働者側から見れば「厳しい」でしょうし、逆に経営者側から見れば「厳しくない」ということかも知れません。

【平成4年:事例研究より】