通勤災害の認定事例文書に出てくる「通常伴う危険」の意味が知りたい【平成4年:事例研究より】

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労働省の通勤災害に関係した認定事例の回答文書には、「本件災害は、通勤に通常伴う危険が具体化したもの」だから通勤災害に該当すると説明したものが多いようです。

どうしてなのでしょうか。

そうなると、業務災害についても、「業務に通常伴う危険が具体化したもの」だけが業務災害に該当すると考えてもよいでしょうか。

そのようなことは通達にはないような気がしますが。

【東京・G機工】

通勤災害の場合通勤災害の場合についてまず考えてみます。

通勤が原因で発生する災害にはいろいろあります。

それを大きく分類すると、一つは通勤に通常伴う危険が原因で発生した災害と、通勤には通常伴わない危険が原因で発生した災害になります。

前者の例では、深夜に犯罪多発地区を通勤する女性の場合、その地域で暴漢におそわれるということは通勤に「通常伴う危険」であるといってもよいでしょう。

逆に、昼間に大通りを通勤する男性にとっては、暴漢におそわれるということは、「通常伴わない危険」であるといってよいと思います。

しかし、昼間の大通りは絶対安全かというと、必ずしもそうばかりとはいえません。

暴力団の発射したピストルの流れ弾にあたって負傷することがあるかもしれません。

これも運の悪い時間帯に通勤したための被害ですから、広い意味では通勤災害といえないこともありません。

しかし、そのような「通勤に通常伴わない危険」が原因で発生した災害に対しては通勤災害として労災保険給付が行われることは一般的にはありません。

これに反して、深夜に犯罪多発地区を帰宅途中の女性が、暴漢におそわれて負傷した場合には、「通勤に通常伴う危険」が原因で発生した災害ですから、労災保険給付の対象となります。

労働省は、このような事例について、「本件については、いわゆる粗暴犯の発生が多いため、警察の街頭活動強化地区として指定されている場所で災害が発生しており、かかる地域を深夜退勤する途上において『強盗』や「恐喝」等に出会い、その結果負傷することも通常考え得ることである」として、「通勤に通常伴う危険が具体化したものと認められる」(昭49・6・19基収第1276号)として保険を給付しました。

業務災害の場合 業務災害の場合も、同じ考え方がとられています。

つまり、業務災害として労災保険が給付されるのは、「業務に通常伴う危険」が原因で災害が発生した場合だけです。

例えば、粉じん作業に従事している労働者には、じん肺症にかかる危険があります。

したがって、粉じん作業従事者がじん肺症にかかった場合には、粉じん作業に「通常伴う危険」が具体化したものとして労災保険が給付されます。

しかし、作業中の労働者が大地震の襲来によって建物が崩壊し、その下敷きになって死亡した場合には、いささか事情が違ってきます。

すなわち、労働省は、「大規模な天災地変の場合は、事業主の支配・管理下の有無を問わず、一般的に災害を受ける危険性があり、業務上の事情が無かったとしても同じように天災地変によって被災したであろうと認められるからで、かかる場合の災害はその発生状況の如何を問わず全て業務起因性が認められないこととなる」(昭49・10・25基収第2950号)といっています。

つまり、大地震による圧死は、業務に「通常伴う危険」の具体化ではないので、労災保険は給付しないということです。

以上からおわかりいただけますように、労働省は通勤災害であれ業務災害であれ、労災保険給付の対象となるためには、あくまでも通勤なり業務なりに「通常伴う危険」が原因であることが必要という考え方です。

つまり、原因と結果の因果関係を無条件に広く認めるのではなく、労災保険法からみて「相当」と認められる範囲内に限定しようということです。

相当因果関係といわれていて、現在のところは、人事院や地方公務員災害補償基金、それに裁判所や学者も一般的に認めています。

しかし、この考え方に対しては通勤や業務と災害の間に合理的関連性が認められればよいという主張も一方にはありますが、現在のところでは、まだ広くは認められていないようです。

最近合理的関連性を肯定したような判決がありましたが、訴え自体は敗訴しているようです(仙台地裁・平成元・9・25判決・仙台労基署長森勇建設事件)。

では、どうして「通常伴う」ことが必要かというと、明確な説明はありませんが、そうでない危険については「事業主に災害発生の責任を帰することは困難だからである」(前同通達)ということのようです。

【平成4年:事例研究より】