退職の前日に業務上負傷したが、在職中の1日だけ休業補償か【平成16年:事例研究より】

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このほど従業員Aが作業中に負傷するという労災事故が発生しました。

Aは事故発生の翌日付けで定年退職することになっていました。

このような場合でも、労災保険の給付が受けられるのでしょうか。

また、被災後3日間は、会社に休業補償の義務がありますか。

災害当日の賃金は全額払いますので、在職中の翌日1日分だけ補償すればよいのでしょうか。

【秋田・W社】

被災労働者が退職して労働関係が消滅した後も、労災保険の保険給付を受ける権利は変更されません。

このことは、労災保険法第12条の5に「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と規定されています。

すでに発生した災害に係る労災保険給付は、労働者の退職によって左右されるものではなく、たとえ退職後であっても支給事由の存在する間は保険給付を受けることができます。

したがって、Aさんが翌日退職されたとしても、療養を必要とする場合には、療養補償給付が行われます。

また、その業務上の傷病のため、労働することができないという休業補償給付の支給事由が存在する限り、休業補償給付は支給されます。

被災後の3日間(待期期間)については、労災保険の休業補償給付が支給されないことから、労基法第76条の規定により使用者が平均賃金の60%の休業補償を行わなければなりません。

これは労基法上の災害補償であり、労災保険給付ではありませんから、労災保険法第12条の5は適用されませんが、労基法第83条に「補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と規定されていますので、労災保険給付と同様に、被災労働者の退職に関係なく、使用者は補償義務を負うことになります。

したがって、たとえ災害発生当日の翌日が定年退職の日であっても、待期期間3日間は休業補償を行うことになります。

業務上の傷病が当日の所定労働時間内に発生し所定労働時間の一部について労働することができない場合は、その日の賃金が全額(平均賃金と実労働時間に対して支払われる賃金との差額の60%以上)が支払われていれば、その日の休業補償が行われたものとして取り扱われます。

災害発生当日に賃金を全額支給した場合には、その翌日と翌々日の2日間、休業補償をするわけです。

なお、業務上の傷病が所定労働時間内ではなく、残業中に発生した場合には、その日は休業の日とならず、待期期間は翌日から起算されますので、翌日から3日間の休業補償をすることになります。

【平成16年:事例研究より】