脚立で作業中に転落してケガしたが、使用法が誤っていたら費用徴収か【平成16年:事例研究より】

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従業員の1人が、脚立に乗って高い所にある物を取ろうとして転落し、足を骨折しました。

原因は、脚立の使用方法が間違っていたのですが、脚立自体も労働安全衛生規則の基準に違反していました。

このようなケガも労災ですので、労災保険に保険給付の請求を行うことになったのですが、費用徴収や場合によっては違反として送検されるのではないかと心配です。

いかがでしょうか。

【山形・G社】

脚立についての安全基準は、ご承知のように労働安全衛生規則第528条に以下のとおり規定されています。

1、丈夫な構造とすること。

2、材料は、著しい損傷、腐食等がないものとすること。

3、脚と水平面との角度を75度以下とし、かつ、折りたたみ式のものにあっては、脚と水平面との角度を確実に保つための金具等を備えること。

4、踏み面は、作業を安全に行なうため必要な面積を有すること。

従業員の方が、どのような使用方法により高い所の物を取ろうとされたのか、ご質問だけからは分かりませんが、少なくとも脚立の違法な構造との関連はないものとしてお答えすることにいたします。

ご質問によりますと、脚立の状況は労働安全衛生規則に違反していたということですから、構造、材料、角度、踏み面のどれかに問題があったものと考えられます。

しかも、そのことは従業員の方の転落の原因になっていないということのようです。

この場合のご心配は、休業補償給付、障害補償給付または傷病補償年金が労災保険から給付される場合に、保険給付の30パーセント相当額が、労災保険法第31条第1項第3号の規定に基づいて、都道府県労働局長から徴収されないかということと、労働安全衛生法違反で送検処分されるのではないかということです。

費用徴収 そこで、まず最初の費用徴収についてお答えいたします。

この費用徴収についての具体的な取扱いについては、旧労働省時代の労働基準局長通達に示されています。

それによりますと、費用徴収の対象となるのは次の場合とされています(昭47・9・30基発第643号)。

イ法令に危害防止のための直接的かつ具体的な措置が規定されている場合に、事業主が当該規定に明白に違反したため、事故を発生させたと認められるとき ロ(省略) ハ(省略) ご質問によりますと、会社が労働安全衛生規則第528条に違反(労働安全衛生法第21条第2項)したために転落事故を発生させたのではないようですので、イには該当しないようです。

したがいまして、費用徴収の対象にはならないのではないかと考えられます。

ただし、該当しないと申しますのは、あくまでも労働安全衛生規則第528条に関してだけです。

その転落事故の発生した作業場所の状況等により、労働安全衛生規則第518条(作業床の設置)第1項違反が成立する場合があるので注意を要します。

すなわち、その事故の態様が墜落といえるようなものでありますと、場合によりましては作業床の設置等が必要な場合もあるからです。

では、墜落と転落とはどう違うかといいますと、転落の方は文字どおり転(ころ)がり落ちることであり、墜落というのは転がるのでなくどすんと落ちることです。

行政解釈のなかに、地山斜面で足を滑らして転落した例について、こう配が40度以上の斜面を転落することは「墜落」に含まれるとしたものがあります(昭51・10・7基収第1233号)。

したがって、40度未満のこう配での墜落は、法の解釈上は「転落」だということになり、むずかしいことです。

司法処分(送検) ご質問の例が、労働安全衛生法違反として、労働基準監督官による捜査送検の対象となるかどうかはむずかしい問題です。

この場合に大事なことは、労働災害の発生と送検の関係です。

行政内部には事前(労災発生前という意味です)送検という言葉もあり、行政方針として重視されていることもあり、労働災害の発生と捜査送検は必ずしも直結していません。

労働災害が発生しなくても、労働安全衛生法違反や労働基準法違反があれば送検することができますので当然なことです。

送検するかどうかは労働基準監督署が決めること ですから、予測はできかねます。

したがって、大事なことは、法違反があったらすぐに是正し、また労働災害が発生したら、以後同一原因による災害を2度と発生させないように迅速に手を打つことです。

そうすれば送検される確率も低下するのではないでしょうか。

【平成16年:事例研究より】