社命でホテルを利用した場合、前泊で出勤する途中の災害はどうなるか【平成16年:事例研究より】

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最近の不況により会社も大変です。

時々、お得意先の仕事の都合で朝早くから作業にかかる必要があり、そのために会社の命令により工場の近所に泊まることがあります。

そうして暗いうちに起き出して出勤するのですが、そんな場合に宿泊所の階段で足を踏み外して負傷した場合には、その災害は労災保険法の業務災害に該当するでしょうか。

また、会社へ出勤する途中の災害はどうでしょうか。

【岩手・W社】

 階段からの転落 まず、階段から転落して受傷した場合に、それが労災保険の業務災害に該当するかどうかについて考えてみることにします。

そこで業務災害に該当するかどうかということですが、一般的に業務災害に該当するためには、業務遂行性と業務起因性が認められなければならないとされています。

最初の業務遂行性の有無ということから説明しますと、発生した災害について被災労働者が事業主の支配下にあったかどうかということです。

次に業務起因性ということは、その事業主の支配下にあったことと災害との間に相当因果関係があったかどうかということです。

以上のことを階段からの転落についてあてはめて考えてみますと、一つは階段から転落したときにその被災者は事業主の支配下にいたといえるかどうかということと、いま一つはそのことと受傷との間に相当因果関係があるかどうかによって業務災害に該当するかどうかが決まるということです。

では、階段からの転落時に、受傷者は事業主の支配下に入っていたといえるでしょうか。

このことを判断するためには、会社の命令の内容を検討することになります。

もし、被災者が宿泊するように会社が強く指示しており、その指示の強さが会社の支配下にあると考えられる程度のものであれば、被災者は宿泊中も会社の支配下にあり、問題の業務遂行性は当然認められることになると考えられます。

それは強制力の程度により判断されることになるでしょう。

業務起因性につきましては、その業務に通常伴う危険が具体化して損害が生じた場合に相当因果関係があるということになって起因性が認められることになります。

この場合、具体的には階段からの転落による災害ですが、階段には通常転落する危険性はありますので相当因果関係があることについては問題ないものと考えられます。

したがって、ご質問の場合には、業務災害に該当するかどうかにつきましては、業務起因性についてよりも業務遂行性の方に問題があるということでしょう。

なお、もし、階段に欠陥があり、それが原因で転落した場合には、労災保険法第12条の4に規定されている第三者(この場合には宿泊先)の責任問題が生ずることがあります。

また、転落の原因が被災者の泥酔にある場合には、その程度により業務災害とならなかったり(業務遂行性がなくなる)、業務災害となっても、労災保険法第12条の2の2の規定により保険給付が一部減額(支給制限)される場合があります。

通勤災害 次に宿泊所に行く途中、また朝になって宿泊所から会社に行く途中に交通災害が発生した場合について考えてみることにしましょう。

まず、その宿泊所に宿泊することが、事業主の支配下にあるということになれば、そこに宿泊することには業務遂行性があるということになりますが、その場合にはそこから会社に出勤することにも同様の業務遂行性があると考えられます。

したがって、その途中で発生した災害は業務災害に該当するものと考えられます。

もっとも出勤中に通勤順路を通行しても、その間に逸脱や中断があるとその部分については災害が発生しても業務災害としては扱われないものと考えられます。

次に、宿泊所に宿泊することについて、事業主の支配下に入っていると考えられない場合、つまり業務遂行性が認められない場合にはどうなるでしょうか。

この場合には出勤途上に災害が発生しても、業務遂行性がないのですから業務災害となることはありません。

しかし、次の日の仕事の開始が早いので、自宅からの出勤では都合が良くないと考えて、事業主からの強制的な命令はなかったが、自分の判断で宿泊したとします。

その場合には労災保険法第7条第2項の「住居」についての旧労働省の行政解釈に、早出の場合に泊まるアパートも住居に該当するとありますから(昭48・11・22基発第644号)、宿泊所は一応通勤災害保護制度上の住居に該当するとみてもよいのではないかと考えられます。

したがって、そのような場合には、宿泊所から会社までの間で発生した災害につきましては労災保険法上の通勤災害に該当するものと考えられます。

【平成16年:事例研究より】