病院だが労災診療費援護貸付契約の勧誘をうける。負担金を払っても有利か【平成4年:事例研究より】

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最近、労災保険情報センターというところの県事務所から、労災診療費援護貸付契約と労災診療共済契約を締結するように勧誘してきました。

これらの契約を締結すると、病院側にとっては大へん有利だとのことですが、説明書を読んでみてもよく分かりません。

何か負担金らしいものも取られるようですが、締結しても病院側としては何ら損はしないものなのでしょうか。

【静岡R病院】

労災診療費援護貸付契約財団法人・労災保険情報センターというのは、労働大臣の認可を受けて設立された公益法人です。

本部は東京都にあり、現在ほとんどの府県に地方事務所が設けられています。

ご質問のあった契約締結の勧誘は、この出先の地方事務所から行われたものと考えられます。

そこで、まず最初に労災診療援護貸付契約の方からご説明しましょう。

ご承知かと思いますが、労災保険は業務災害や通勤災害に対する保険給付を行う事業以外にも、労災保険法第23条により労働福祉事業を行います。

その労働福祉事業の中には、第2番目として被災労働者の援護を図るために必要な事業が掲げられています。

ご質問のありました労災診療費援護貸付契約は、この事業の一部として行われるものであって、労災保険から補助が行われています。

では、具体的に契約を締結すると、どのような効果があるかと申しますと、労災診療費の支払いを事実上早く受けられるということです。

つまり、労災保険情報センターと労災診療費貸付契約を締結した労災指定病院等は、締結後は労災診療費の請求書を労働基準局でなく労災保険情報センターの地方事務所の窓口に提出することになります。

そうしますと、地方事務所では請求内容を点検し(診療内容が適正かどうかは点検しません)、計算に間違いがなければ請求金額と同額を貸付けます。

具体的には、契約を締結した指定病院等が指定する金融機関の口座に振り込まれます。

このことでお分かり、いただけますように、支払いが遅延するおそれがありません。

そして、この貸付金は後日、労災保険から診療費が支払われたときに、その受領を情報センター理事長に委任することにより清算されます。

なお、貸付金については利子は全く付きません。

ところで、労災保険から診療費が支払われる前に、労災保険指定病院等が労災保険情報センターから診療費請求相当額の前貸しを受けますと、いろいろと複雑な問題が生じる場合があります。

たとえば、労災保険の指定病院側では業務災害と思って無料で診療し、その診療費の請求を行って、その分の前貸しを受けたとします。

ところが、労働基準監督署長が調査の結果、業務災害には該当しないと判断して診療補償給付の不支給決定を行ったとします。

そうしますと、労災指定病院側としましては、その分の前貸金を労災保険情報センターに返金しなければなりません。

しかし、そのことについては、次の前貸金から差し引いてもらえばよいのですが、それだけでは済まない問題が生じます。

と申しますのは、まず第1番目の問題として、労災保険と健康保険との診療費の計算方法の違いによる診療金額の相違ということがあります。

税金等のこともあって、一般的には健康保険の診療費計算よりも労災保険の診療費計算の方が有利になっているようです。

そうしますと、労災保険指定病院等では労災保険不支給決定分を当然、健康保険に請求するでしょうが若干損をするということになります。

次に、第2番目の問題としましては、健康保険の場合には、労災保険と違って受診者本人の負担分があります。

これにつきましては、健康保険に請求するわけにはいきませんので、労災保険の指定病院等は直接受診者本人に対して請求しなければなりません。

しかし、このことは事務的には大へんめんどうなことです。

特に建設労働者や外国人労働者の場合等では、その所在も分からない場合もあるでしょう。

以上のようなことについて、労災診療共済契約を締結していれば、労災保険と健康保険との差額も支払ってもらえますし、受診者の本人負担分も支払ってもらえます。

おまけに、本人への支払い請求まで労災保険情報センターで行うことになります。

もちろん、そのためには受診者1人(療養給付請求書1枚)につき1,800円を納入する必要がありますが、それについては療養補償給付請求書一枚につき2,000円の取扱い手数料が支払われることになりましたので、従前と比較して不利にはならないはずです。

【平成4年:事例研究より】