母指を業務上切断、創面は治ったが再手術を受けたいが保険治療できるか【平成4年:事例研究より】

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従業員が木工作業をやっていて、誤って木工機械で母指を切断してしまいました。

そのため治療した結果、現在傷口は治ゆしました。

ところが、他の病院で聞いたところによりますと、何かもっと良くなる手術があるということです。

被災者本人はそれを受けたいというめですが、傷口が一たんなおっているので、労災保険で手術ができるかどうか疑問があります。

その点についてお答え下さい。

【干葉・C木工】

ご質問によりますと、切断された傷口はすでに治ゆしているとのことです。

労働省によりますと、「負傷においては創面の治ゆした場合」(昭23・1・13基災発第3号)に負傷が治ゆしたものとして扱うことになっていますので、その後は療養補償給付や休業補償給付は支給されないことになります。

したがって、ご質問のような他の病院における手術も療養補償給付の対象外ということです。

もちろん、その場合には負傷前と同じ状態にまでは完全に回復せず、身体に一定の障害状況が残ることがあります。

もし、残った身体障害の程度が労災保険法施行規則別表第1の障害等級表の程度に達していれば、障害補償給付を受けることができます。

ご質問によりますと、指を切断されたということですから、おそらく障害等級表に定める程度の身体障害が残っているのではないかと思われます。

そうなれば当然、障害補償給付を受けることができるはずです。

しかし、障害補償給付を受けた後に、さらに手術を受ければ障害程度が軽くなる場合もあることが考えられます。

そんな場合にも治ゆ後だから労災保険は全く関係ないということになりますと、被災者にとっては酷といえます。

そこで、労災保険の労働福祉事業の一つとして外科後処置という制度が設けられています。

この外科後処置というのは、労働福祉事業実施要綱によりますと、「労災保険法による障害補償給付め支給決定を受けた者であって、外科後処置により障害補償給付の原因である障害によって喪失した労働能力を回復し、又は醜状を軽減し得る見込みのあるものに対して行うもの」で、その内容は原則として「整形外科的診療、外科的診療及び理学療法」とされています。

ただし、注意を要するのは、すでに一たん治ゆとしていることですし、傷病の再発でもありませんので、処置を受けるために会社を休んでも休業補償給付は支給されないということです。

以上に述べたことは原則的な取り扱いです。

原則には例外があるのが普通ですが、指を切断した場合の手術についても例外的な取り扱いがありますOそれは機能再建化手術を行う場合です(昭55・3・1基発第97号)。

労働省によりますと、機能再建化手術(切断指の再接合手術を除く)の必要性が認められる場合には、切断指の創面の症状が固定した場合であっても、ただちに治ゆとせずに、その手術が実施され、施術部位に係る療養が終了した時点で治ゆとして取り扱うこととしています。

つまり、創面の症状が固定した以後に行う機能再建化手術も療養補償給付の支給対象となるということです。

もちろん、そのために休業すれば、休業補償給付も支給されるということでしょう。

では、機能再建化手術というのは、具体的にはどのようなものであるかというと、労働省は次の(1)から(5)までの手術であるとしています。

(1)切断指の再接着手術 (2)指間の形成による母指の相対的延長手術 (3)母指延長手術(欠陥、神経付離植皮を伴う造母指手術を含む) (4)手指または足指の移植による母指化手術 (5)その他上記(1)から(4)に準じて行われる手指の機能再建を図るための手術であって、医学的な評価がすでに確定していると認められるもの なお、一たん治ゆした後に機能再建化手術の必要性が生じた場合には再発の場合に準じて取り扱われますから、療養補償給付等の支給は通常どおり行われまず。

例外的な取り扱いについては以上のとおりですから、ご質問にありました他の病院で聞かれたという良い手術が、労働省の認める切断手指の機能再建化手術に該当するかどうかということが問題です。

そのことにつきましては後に問題を残さないために、被災者の方が手術を受ける前に、所轄労働基準監督署の労災保険担当官によく相談されることがよいと思います。

監督署では「当該医療行為を適正に実施することが可能な医療機関を常に把握」(同通達)しているはずですから、適切な指導助言が得られるでしょう。

【平成4年:事例研究より】