建設業だが監督署、基準局から保険料調査で来訪されるか職員にどんな権限かあるか【平成4年:事例研究より】

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建設業のため労災発生も比較的多いので、監督署の担当官がよく調査にみえます。

また保険料調査と言うことで、基準局等から調査にみえることもあります。

みえるのは必ずしも監督官の方に限らないようですが、その方たちにはどのような権限がおありなのでしょうか。

【埼玉K建設】

保険給付について労災保険法の施行について必要な権限を有しているのは、基本的には都道府県労働基準局長や労働基準監督署長という「行政庁」です。

例えば、労災保険法第47条の2によりますと、行政庁は、保険給付に関して必要があると認めるときは、保険給付を受け、または受けようとする者に対し、その指定する医師の診断を受けるべきことを命ずることができる、とあります。

この診断命令は、労働基準監督署長は出せますが、労災課長以下の担当職員には出す権限がありません。

では、労災担当職員には、どのような権限があるのでしょうか。

最初に保険給付に関する権限について説明します。

まず第一の権限としましては、労災保険法第48条に、「行政庁はこの法律の施行のため必要があると認めるときは」、当該官吏に、この法律の適用を受ける場所または労働保険事務組合もしくは特別加入者の団体の事務所に「臨検」し、関係者に対して「質問」し、または帳簿書類の「検査」をさせることができる、とあります。

つまり、当該官吏にできることは「臨検」、「質問」、「検査」の3つです。

臨検というのは、その場所に臨(のぞ)んで検(しら)べることです。

しかも、これらの権限は、行政庁が必要と認めたときに当該官吏だけに認められるものです。

この点が労働基準監督官の場合と違っています。

労働基準監督官には、監督官に任命されると同時に労働基準法等に認められている権限が自動的に認められます(もっとも、それを行使するについては行政庁による監督を受けることは当然です)。

しかし、労災保険担当者は、保険担当を命ぜられると自動的に権限が与えられるのではなく、行政庁により権限を与えられることではじめて権限を行使できることになります。

具体的には都道府県労働基準局長が権限行使に当たる職員に対して「証票」を交付することになっています。

そして、臨検等に従事する職員は、その証票を携行することとされています(労災保険法施行規則第52条)。

第2の権限としては診療録等の検査を行う権限があります。

この場合にも第一の場合と同様に、都道府県労働基準局長から証票の交付を受けた職員だけが、診療録、帳簿書類その他の物件を「検査」する権限があります(労災保険法第49条、同施行規則第53条)。

以上に述べた第1と第2の権限は検査等を相手が拒否した場合には、実力で強制して行うことはできません。

相手が質問に対して答弁しなかったり、虚偽の陳述をしたり、検査を拒んだり、妨げたり、忌避したりした場合は、6ヵ月以下の懲役または5万円以下(第2は3万円以下)の罰金に該当するということです(、51条、53条)。

保険料について 労災保険料の調査権限については、労働保険の保険料の徴収等に関する法律の第43条に規定されています。

やはり、都道府県労働基準局長から証票の交付を受けた職員は、保険関係が成立し、もしくは成立していた事業の事業主または労働保険事務組合もしくは労働保険事務組合であった団体の事業所に立ち入り関係者に「質問」し、または帳簿書類の「検査」を行うことができます。

この質問や検査に応じないときも6ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金に該当することになります(46条)。

次に保険料の徴収についての権限ですが、これは国税滞納処分の例によりますので徴収担当職員には国税徴収法に規定されている次のような権限があります(第142、143、145条)。

1 滞納処分のため必要がある場合には、日出から日没までの間にかぎり一定の場所について捜索することができる。

2 捜索の際に、一定の者以外の出入を禁止することができる。

場合によっては、担当職員が自ら金庫を開くこともできます。

つまり、滞納処分に際しては、保険給付調査や保険料調査の場合と違って、担当官が自らいろいろと行動することができます。

もし、相手方がそれを邪魔すれば、刑法第95条に規定する公務執行妨害罪が成立し、場合によっては3年以下の懲役または禁錮ということにもなりかねません。

【平成4年:事例研究より】