労基局と労基署に労災保険担当部署かあるか仕事の分担はどうなっている【平成4年:事例研究より】

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労災保険の仕事をするために、労働基準監督署と労働基準局の両方に労災保険担当課があるようです。

わたしたちのように外部の者から見ますと、何か重複しているような気がします。

基準局と監督署の仕事の分担はどのようになっているのか、外部の人間にもよく分かるように説明して下さい。

【東京都・M鉄鋼】

保険料収入と保険給付 ごもっともな質問です。

分かりやすく説明することは、なかなか困難ですが、簡単に申しますと、労災保険には(どの保険でも同じですが)保険料を徴収する仕事と、徴収した保険料を保険給付として支払う仕事の二つがあります。

この前者の労災保険料を徴収する方の仕事を都道府県労働基準局が担当し、後者の保険給付を支払う方の仕事を労働基準監督署が担当しています。

もちろん簡単にそうは言っても、保険料徴収の仕事はさらに労災保険関係を政府と事業主の間に成立させる適用事務と、保険料を現実に徴収する徴収事務とに二大別されます。

また、前者の適用事務の中には労働者以外の中小事業主その他の加入を認める特別加入の事務等も含まれます。

また徴収事務の中には、未届や安全衛生法令に違反して労働災害を発生させたときに行われる費用徴収(労災保険法第25条)の事務も含まれます。

一方、保険給付の支払いは労働基準監督署で行いますが、労災保険指定病院等に対する診療費(保険給付そのものではない)の内容審査や支払いは基準局で行っています。

また、労働基準監督署でも、たまには保険料の滞納整理に出かけたりして、徴収事務を全く行わないわけではありません。

なお、保険料や保険金の収支等の金銭の流れについては、会計法にきびしい規定があり、概略説明しますと次のとおりです。

まず、現金の出納は、一定の職員でなければできないことになっています。

そのため基準局や監督署の労災担当官は、一般的に「分任収入官吏」に任命されており、労働基準監督署長と都道府県労働基準局の労災主務課長は「主任収入官吏」に任命されています。

いずれも個人的に一連番号の入った領収証書を所持しており、保険料を受け取った場合には必ずその領収証書を渡すことになっています。

都道府県労働基準局長は「歳入徴収官」として、保険料歳入の事務を統括します。

逆に保険金の支払いに関しては、都道府県労働基準局長は「支出官」、労働基準監督署長は「資金前渡官吏」として機能します。

労災保険の各給付請求書の上欄には、「署長・資金前渡官吏」とならんだ決裁欄があるのはそのためです。

署長は局長から保険金支払いに要する資金の前渡を受け、その残高を見ながら支払いの決裁を行うのです。

上級庁としての仕事 以上述べた以外に、都道府県労働基準局には、労働基準監督署の上級官庁としての仕事があります。

つまり、監督署の行う労災保険業務に対する監督です。

そのため地方労災補償監察官という職制があって、監督署の労災保険業務の監察に従事します。

監督業務とは違ったものですが、労働者災害補償保険審査官が置かれていて、労働基準監督署長の行った保険給付決定に関する不服を審査します。

この審査官は、勤務時間等の服務については局長や課長の監督に服しますが、審査業務自体は独立して行います。

もっとも労働省労働基準局長の発した業務上認定基準のような一一般的な通達には拘束されるとされています(昭31・8・1発総第21号)。

特殊な仕事としては第三者行為による災害についての求償権の行使があります。

労災保険法第12条の4に規定するところにより、労働災害や通勤災害が第三者の行為により発生し、それに対して保険給付が行われたときには、加害相手の責任の度合に応じて求償します。

この場合の災害発生状況については、一般的には労働基準監督署の担当官が調査しますが、その調査書は基準局にまわって行きます。

労働基準監督署長は、歳入徴収官ではないので求償権の行使はしません。

そこで基準局の労災担当課に調査書がまわって行きますと、一般的には給付調査官がその内容を点検して、加害第三者の責任度合を検討し局長や課長の決裁をうけて求償文書を発送することになります。

これに対して相手方が不服であれば、審査官に対する審査請求でなく、通常の民事裁判で争うことになるわけです。

以上述べましたとおり、基準局と監督署で事務が重複して無駄があるということはありません。

【平成4年:事例研究より】