アーク溶接のマイクロ波受けるとコンタクト着用者に危険及ぶか【平成16年:事例研究より】

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先日、「コンタクトレンズの装着者がアーク溶接の光を、保護眼鏡を外した状態で見ていたところ、溶接時に発生するマイクロ波によって眼とコンタクトレンズの問の水が蒸発して角膜とコンタクトレンズが付着してしまい、コンタクトレンズを外した際に角膜がはがれて失明した」という情報が、海外の支社から流れてきました。

このようなことは、実際に起こりえるのでしょうか。

また、わが国で過去に同種の災害が発生した事例はあるのでしょうか。

【栃木・P社】

アーク溶接は、直流電源の陽極(電極棒)と陰極(母材)の間に発生させたアーク(電流による火花)の熱を利用し、金属の接合部分を溶融させて接合させる溶接方法です。

アーク溶接作業に関し、ご質問にある話と同種類の情報、例えば、「造船所でアーク溶接作業の際に、作業場が暑いので保護眼鏡を外して汗をぬぐっていた労働者が、溶接時に発生するマイクロ波を受けて眼とコンタクトレンズと角膜が溶着してしまい、帰宅してからコンタクトレンズを外したところ角膜が剥がれて失明した」などが、わが国においても、出所不明のまま、伝わっているようです。

しかしながら、それらの話のすべてが、具体的な被災者や災害発生事業場の特定を行うことはできず、結果として、単なる"噂"でした。

このような噂は、もともとは海外から伝わった話のようで、今回の件についてもインターネット等を通じて、短期間に広まったようです。

マイクロ波は、電子レンジで物を加熱するときに使用されているように、熱作用がありますが、アーク溶接で発生するマイクロ波のエネルギーレベルで、このようなことが発生することは確認されていません。

アーク溶接作業により発生する眼の障害は、溶接作業時にアーク光から発生する紫外線による「電光性眼炎」や赤外線による「角膜熱変成による白内障」が知られており、これらの障害を防止するためには、適切な遮光保護具の選択と使用が不可欠です。

遮光保護具の選択・使用については、昭和56年基発第773号通達と日本工業規格JIST8141を参考にされると良いでしょう。

また、コンタクトレンズは、装着時にレンズと角膜との間に粉じん等の異物が混入した場合や装着方法が不適切だった場合などに、未装着時に比べ眼に対する機械的刺激が強くなり、その影響によって角膜炎等の障害が発生するおそれもあります。

眼の障害を防止するために重要なことは、遮光保護具についても、コンタクトレンズについても、それぞれ正しい装用と管理を心がけ、何か異常を感じた場合には医師の診察を受けることです。

なお、アーク溶接作業では、眼の障害の防止対策とともに、作業時に発生する金属ヒュームによるじん肺の予防の対策も必要となりますので留意してください。

じん肺予防対策としては、作業場所に局所排気装置等を設けるとともに、これらの措置を講じることができない場合には防じんマスクの着用が必要です。

昭和56年基発第773号通達(部分) 1 しや光保護具について 労働安全衛生法規則第325条第2項に規定する保護具及び同規則第593条に規定する保護眼鏡のうち、しや光保護具として適当な保護具とは、日本工業規格T8141に適合するしや光保護具又はこれと同等以上のしや光能力を有するしや光保護具をいうものであること。

2 溶接作業者等について (1)溶接作業者については、  イ 前記1のしや光保護具であって、溶接方法を、アーケ電流等に応じT8141規格の参考表に掲げる使用標 準を参考にして適当なものを使用させるよう指導すること。

   ロ アーク点火時においてしや光保護具の使用が遅れることによるばく露及び周辺溶接作業からの直射光 、散乱光等によるばく露を受ける場合においては、これらのばく露を防止するため、T8141規格の表3に掲げ る しや光度番号1・4から2・5までのしや光眼鏡を常時使用させ、アーク点火時以後はイのしや光保護具を 併用させるよう指導すること。

(2)(略) (3)隣接溶接作業からの側射光等によるばく露を受ける作業者については、しや光眼鏡の形式についても、T8141規格の表1に掲げるスペクタル形でサイドシールドがあるもの(B系列)又はゴグル形のもの(D系列)を使用させるよう指導すること。

【平成16年:事例研究より】