作業を高所で行うことがよくありますが、作業場所が短時間で移動するので墜落防止措置には苦労しています。
場所によっては作業床も設けることができず、安全帯の取り付け設備はもとより安全ネットを張ることもできないところがあります。
そのような場合、もし作業中に労働者が墜落死傷したとき労災保険が給付されますと、やはり原則どおり費用徴収が行われるのでしょうか。
【富山・I社】
墜落災害防止に関する一般的な規定は労働安全衛生規則第518条ですので、それを中心にしてご説明いたします。
ご承知のように第518条は、高さが2メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等については第519条に規定されていますので、この条からは除かれます)で作業を行う場合において、「墜落により労働者に危険を及ばすおそれのあるとき」には墜落防止措置を講じなければならないと規定しています。
すなわち高さが2メートル以上の箇所のすべてではなく、墜落のおそれがあるときだけ措置を講ずればよいわけです。
では、高所作業の熟練者については墜落のおそれがないから措置を講じなくてもよいかといいますと、そんなわけにはまいりません。
やはり措置を講ずることが必要です。
では、具体的にはどのような安全措置を講ずればよいかといいますと、第1項に、足場を組み立てる等の方法により、作業者が墜落しないような作業床を設けることを規定しています。
これは別に足場の組み立てという方法に限らず、とにかく作業が安全にできる作業床を設けるべきことを規定しているわけです。
しかし、現実には、作業を行う場所の状況によっては、どんな方法によっても作業床を設けることができない場合だってあります。
では、その場合にはどうしたらよいでしょうか。
そこで第2項には、第1項に規定するような作業床を設けることが困難なときは、作業床以外の方法により墜落防止措置を講じなければならないと規定しています。
ここで、「困難なとき」といっているのは、作業床を設けるための必要な広さが十分にないとか、作業箇所の構造上技術的な困難さがあるとき等のことで、作業床を設けることは可能であるが、その費用がかかるからというようなことは該当しないと考えられます。
第2項では墜落防止措置の具体的な方法として、「防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等」と例示しています。
しかし、適切確実な方法がない場合、またはそれがあっても余りに負担が大きい場合などの問題もあります。
措置が無理な場合 適切確実な墜落防止措置があっても、頻繁に作業場所を移動する場合、または作業が短時間で終了する場合には、その都度墜落防止措置を完全に講ずることは、たとえその材料代がいくらもかからないとしても、その分の人件費はかかるので無駄に思えます。
では、そのような場合にでも墜落防止措置を講ずる必要があるでしょうか。
そこで、労働安全衛生規則と同じように、労働安全衛生法に基づいて制定されている厚生労働省令である有機溶剤中毒予防規則をみてみることにしましょう。
ここには臨時に行う業務(第8条)や、短時間の業務(第9条)についても、規則条文の適用を一部除外することを規定しています。
このことでわかりますように、条文の適用を除外する場合については、規則条文の中に明示されているのが通例です。
ところが、墜落防止(労働安全衛生規則第518条)措置については労働安全衛生規則のなかに、有機溶剤中毒予防規則について前述しましたような除外規定が見当たりません。
したがって、頻繁に作業場所が移動する場合でも、短時間で作業が終了する場合でも、第518条は原則どおり適用されると考えられます。
では、適切有効な措置が全くない場合にはどうなるでしょうか。
やはり厚生労働省令である鉛中毒予防規則第23条第5号として、出張して行い、または臨時に行う業務(作業の期間が短いものに限る)については局所排気装置及び全体換気装置を設けないことができるとしています。
これは難しくいえば「許された危険」ということになるかもしれませんが、そのような規定は第518条についてはありませんので、やはり原則どおりの適用があると考えられます。
しかし、その違反のために労災保険法第31条第1項第3号による費用徴収が行われるかどうかは、都道府県労働局長が決定することですから、どう判断されるかは断言できません。
必要なのは違反かどうかではなく墜落災害の防止です。
それさえなければ費用徴収の問題は生じないのですから。
【平成16年:事例研究より】