懲戒解雇者から請求があったが、退職証明を交付すべきか【平成15年:事例研究より】

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先日、当社の従業員Aが会社の金を使い込んでいたことが発覚しましたので、懲戒解雇とし、Aも納得のうえで会社をやめてもらいました。

そのAから退職証明書を出して欲しいとの申し出がありましたが、Aのように懲戒解雇した者にも、退職証明書を作成し、交付しなければならないのでしょうか。

【熊本 H社】

労基法第22条は「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇であった場合にあっては、その理由を含む)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない」と規定しています。

退職証明書の請求権発生要件である「退職の場合」とは、労働者の自己退職の場合に限らず、使用者より解雇された場合や契約期間の満了により自動的に契約が終了する場合も含まれ、退職原因のいかんを問わないと解されています。

したがって、ご質問の場合のような懲戒解雇であっても、請求があれば退職証明書を交付しなければなりません。

交付する退職証明書に記載しなければならない事項は、①使用期間②業務の種類③その事業における地位④賃金⑤退職の事由(解雇の場合は解雇事由を含む)−の5項目となっており、これらの事項については請求があれば必ず記入しなければなりません。

「使用期間」は、その企業における使用期間で、職務や事業場の変更があっても企業が同一である限り通算します。

「業務の種類」は、なるべく具体的に記入し、特殊技能が必要となるものについてはそれが明確になるように記入します。

「その事業における地位」は、単に職名、役付名のみでなく、その責任の限度を明確にします。

「賃金」は、賃金の名称ごとに分類し、あわせて1ヵ月の総額も記入します。

「退職の事由」は、自己都合退職、勧奨退職、解雇など労働者が、身分を失った事由を記入します。

解雇の場合には、その解雇理由も「退職の事由」に含まれますので、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則のその条項の内容とその条項に該当するに至った事実関係を記入しなければなりません。

同条第2項は「前項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない」と規定しています。

5項目の法定事項は、労働者から請求があった場合には必ず記入しなければなりませんが、労働者が請求しない事項は、たとえ法定事項であっても、記入することが禁じられています。

たとえば、解雇された労働者が解雇の事実のみについて証明書を請求した場合には、使用者は解雇の理由を記入してはならず、解雇の事実のみを記入することになります。

使用者としては、記入事項を労働者に問い合わせ、記入事項を確認するようにしなければなりません。

【平成15年:事例研究より】