死傷病報告、工場内等で発生すれば業務上でなくても提出するのか【平成16年:事例研究より】

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この前、労働局の説明会に出席しましたところ、講師の説明の中で労働者死傷病報告は労働災害に限定されず、工場や寄宿舎内で死傷した場合には、それが労働者である限り労働者死傷病報告を提出するようにということでした。

私はそれは誤りではないかと考えたのですが、多勢の中で余りにも初歩的な質問をしても恥ずかしいので、手を挙げませんでした。

本当にそうなのでしょうか。

【群馬・W建設】

よくある誤解です。

では、労働者死傷病報告の提出について規定している労.働安全衛生規則第97条第1項の規定をみますと、次のとおり書かれています。

「事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない」。

この条文を見ればわかりますように、労働災害の下に「その他」とありますので、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出しなければならないのは、大きく分類して次の2つになります。

(1)労働者が労働災害により死亡し、又は休業したとき (2)労働者が就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したとき (2)は、通常は労働災害に該当しますが、そうではない場合も考えられないではありません。

実は、現在の労働安全衛生法に基づいて制定されている労働安全衛生規則以前の労働者死傷病報告に関する規定は、安全衛生部分が労働基準法の第5章にあった関係上、労働基準法施行規則の第57条にありました。

そして、そこには少し違ってはいますが第2号として(1)が、第3号として(2)が規定され、次のようになっていました。

2 労働者が業務上の疾病により、死亡し又は休業した場合 3 労働者が就業中に、又は事業場内若しくは事業の附属寄宿内で負傷し、窒息し、又は急性中毒にかかり、死亡し又は休業した場合 これでみますと、疾病については業務上に限定し、負傷、窒息又は急性中毒については業務上に限定していません。

その点て現在の規定と若干相違していますが、業務外の負傷、窒息又は急性中毒についても労働者死傷病報告に含まれていることがはっきりしています。

このように沿革的にみましても、労働者死傷病報告の対象となる範囲が労働災害に限定されるものでないことはお分かりいただけるのではないかと思います。

そのことは労働災害も含めた事業場における危害の防止を図る点からも十分うなずけることだと考えられます。

寄宿舎の場合ほか 現在、安全衛生に関することは労働安全衛生法の中に規定されているのですが、例外的に、年少者や女性、それに事業附属寄宿舎の安全衛生については労働基準法の中に規定されています。

そこで、事業附属寄宿舎における労働者の死傷病報告については労働基準法施行規則第57条に規定されています。

そこで、その第1項第3号をみますと、使用者が労働基準監督署長に報告しなければならない場合の一つとして、次の場合を規定しています。

3 労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷し、窒息し、又は急性中毒にかかり、死亡又は休業した場合 これで分かりますとおり、この場合にも労働災害に限定されていません。

その点て労働安全衛生規則第97条第1項の場合と同じです。

なお、労働災害というのは、労働安全衛生法第2条第1項に規定されているように「業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡すること」であり、労働者災害補償保険法にいう業務災害と同じです。

したがって[労働災害その他]というときの「その他」は業務に起因しないものということになるでしょう。

なお、労働者死傷病報告の対象は、傷病の程度が少なくても休業1日以上ということになりますが、労働災害によっては必ずしもそうとは限らない場合もありますので注意してください。

例えば、労働者が酸素欠乏症又は硫化水素中毒にかかったときには、1日も休業しなくても労働基準監督署長に報告しなければならないことが酸素欠乏症等防止規則の第29条に規定されています。

また、労働者に死傷がなくても火災や爆発等一定の事故が発生したときには遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告しなければならないことは、労働安全衛生規則第96条ほかに規定されているとおりです。

【平成16年:事例研究より】