下請従業員が脚立から落下したが、一次下請けに影響あるか【平成15年:事例研究より】

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元請業者から一部の仕事を受けて、さらに下請業者を使用して建設工事を行っています。

ところが下請け業者の使用している従業員が、脚立を使用して作業中に墜落して負傷しました。

このことにつきまして、私の方の会社に何か影響があるでしょうか。

労災保険には元請業者が加入しており、私の会社や、私の会社の下請業者は労災保険には直接加入していません。

【東京 F社】

ご質問の場合に、まず問題になりますことは、被災された労働者の労働関係はどこと成立していたかということです。

もし、その方が、どことも労働関係がなく一人親方等の労災保険特別加入者であるとしたら、あなたの会社にとっては少なくとも労災保険法上は別に何も問題は生じないものと考えられます。

次に、その被災した労働者とあなたの会社の下請業者との問に労働関係があったとしますと、その労働災害の発生状況によっては下請業者の方については、何か問題が生ずるかもしれませんが、あなたの会社については問題はないと考えられます。

しかし、下請業者の使用する労働者であるということであっても、それはただ名義上だけのことであって、作業の実態その他からみて、実態上はあなたの会社の労働者と考えられる場合には、問題が生ずることも考えられます。

すなわち、もし、その墜落災害が労働安全関係法令(必ずしも労働安全衛生法に限定されません)の規定する具体的な安全基準に違反したことが原因で発生したものである場合には、労災保険法第31条第1項第3号の規定により(昭47・9・30基発第643号)、費用徴収の対象となるからです。

もし、そうなりますと、労働基準監督署長が行った休業補償給付、傷病補償年金、障害補償給付、遺族補償給付及び葬祭料で、療養を開始した日(災害の発生した日でなく)の翌日から起算して3年以内に支給事由の生じたものが費用徴収の対象となります。

具体的には、労働基準監督署長が、上述しました各保険給付を行ったつど、その給付額の30パーセント相当額が都道府県労働局長(歳入徴収官)から徴収されます。

もし、徴収に応じなければ、国税滞納処分の例により強制徴収されることになります(労災保険法第31条第4項)。

墜落災害防止法令:費用徴収が行われるのは、法令に危害防止のための直接的かつ具体的な措置が規定されていて、事業主がその規定に明白に違反したことが労災発生の原因となった場合ですが、では、どのような規定があるでしょうか。

ご質問によりますと、脚立を使用して作業中に墜落したとのことですが、そうしますと労働安全衛生規則第528条に、脚立について次のような安全基準が規定されています。

一 丈夫な構造とすること。

二 材料は、著しい損傷、腐食等がないものとすること。

三 脚と水平面との角度を75度以下とし、かつ、折りたたみ式のものにあっては、脚と水平面との角度を確実に保つための金具等を備えること。

四 踏み面は、作業を安全に行うため必要な面積を有すること。

一応、以上の基準に合致しているかどうかを検討してみるとよいと思います。

しかし、以上の基準に合致している脚立を使用していたから安心というわけにはいきません。

というのは、その作業自体について脚立を使用することで安全対策上問題がなかったかどうかということがあります。

もし、作業箇所が2メートル以上の高さであって、墜落の危険性があったとしたら、労働安全衛生規則第518条第1項の規定により、事業主には、安全な作業床を設ける義務があったことになります。

それが困難な場合は、安全ネットを張ったり、労働者に安全帯を使用させる等の措置が必要であることが同条第2項に規定されています。

また、作業の際に墜落した場所が、作業床の端や開口部等であるときは、労働安全衛生規則第519条第1項の規定により、その箇所に囲いや、手すり等の措置を講ずる必要があったし、それが著しく(第518条の場合には「著しく」がありません)困難な場合には、同条第2項にやはり安全ネットを張ること等が必要であると規定されています。

そこで以上の各規定の順守状況によりご質問の答が出るのではないでしょうか。

最も基本的な労働関係の有無につきましては、会社からみて被災者が労働基準法第9条に規定する労働者に該当するかどうかを検討してみたらよいと思います。

【平成15年:事例研究より】