派遣業界で新たに設立が決まった健保組合のメリットは【平成15年:事例研究より】

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派遣業界で、健康保険組合が設立されたというニュースを目にしました。

派遣労働者にとっては便利な仕組みのようですが、派遣を利用する企業側には何かメリットがあるのでしょうか。

【埼玉 H社】

派遣業界の健保組合設立の動きですが、問題の根本は根深いものがあります。

派遣労働者は、短期・断続的ぶ働き方をするのが一般的です。

派遣という就労スタイルを選ぶ理由として、「勤務先を固定せず、働きたいとき働けるから」と答える人が少なくありません。

企業側も、必要なときだけスポットで人を手当てする方策として、派遣を利用するケースが大半です。

しかし、健康保険の仕組みは、派遣労働者の登場を想定していなかったので、必ずしも派遣の実態に適合するものではありません。

健康保険制度の建前は、登録型の派遣労働者として就労先が決まれぱ健康保険に加入し、派遣が終われば国民健康保険に切り替える、その手続きの繰り返しを求めるというものでした。

しかし、これは事務的負担が重いために、派遣元企業・派遣労働者双方ともに二の足を踏んでいるのが実情でした。

一方で、平成11年の法改正に合わせ、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」に、「派遣先は、労働・社会保険に加入する必要がある派遣労働者については、加入している派遣労働者を受け入れるべきこと」という1項が加えられました。

派遣を利用する側の企業も、社会保険の未加入を看過してはいけないことが、明文で示されたのです。

派遣元に対しても、派遣先へ、社会保険の加入状況、および未加入のときはその理由を通知する義務が課せられています。

そこで、派遣業界は、厚生労働省に対し、「派遣の実態を踏まえた加入基準の見直し」を求めてきました。

早い話、「短期・断続的な」働き方をする派遣労働者に対しては、健康保険の加入を免除してほしいと要請したのです。

しかし、派遣労働者を特別扱いすることに役所側は消極的で、「現実的な」対応として、今回の健康保険組合設立のアイデアが浮上してきたわけです。

健康保険組合は、法文上は300人以上の企業(グループ)で設立可能となっていますが、実際の運用としては、企業グループの場合で3、000人以上被保険者がいることが要件になっています。

今回の人材派遣業界の健保組合は、設立時の加入社数60社、対象人員10万人という大規模なものです。

健康保険組合に加入している企業では、雇用労働者のうち健保の加入義務がある人は、すべて健保組合の被保険者となります。

正社員のほか、常態的に派遣労働者として働く人も、原則的にこの健保組合の被保険者となります。

通常は、社員としての身分が消滅すると、同時に被保険者でなくなります。

登録型派遣労働者の場合、派遣の終了イコール雇用の終了ですから、健保の資格を失ってしまいます。

このため、厚生労働省では、健保組合に対する特例として、次の派遣が決まっている場合には、社員としての身分を失っても、健保組合の被保険者資格を喪失せずに済む仕組みを創設しました。

健保組合は、一定範囲内で保険料を自由に設定できるので、政管健保(1,000分の82)より保険料を安くすることもできます。

ということは、利用する企業側も、保険料が安くなる分、料金面でメリットが期待できるということです。

派遣労働者の利用を考えている企業では、健保組合加入かどうか、チェックする必要が高いといえます。

【平成15年:事例研究より】